長者町コットンビルGROUND (名古屋) 2022年7月8~17日
BLACK TICKET
名古屋を拠点にさまざまなアートプロジェクトを手掛けるN-markのアーティストリサーチプログラムである。
名古屋地区で開催される美大、芸大の卒業制作展などで、N-markが注目したアーティストに対して、グループショーへの参加を打診。それに応じた出品者で構成される若手のグループ展である。
若手に参加を呼びかける招待状が黒いチケットであることから、展覧会名が「BLACK TICKET」になっている。会場は、地下鉄伏見駅近くの長者町コットンビル1階。木金土日曜日のみの開催で13:00-20:00(日曜日は17:00まで) 。
大嶽涼太
大嶽涼太さんは、名古屋芸術大学美術学部卒業。とてもユニークな発想をする作家である。
メインの絵画は、低い視点から捉えた行き交う人々の雑踏がスモーキーな背景となって、手前のレイヤーに、くっきりとした色彩の鴨が描かれている。脚だけはすすけた色合いで、背景に同化。目と口は赤いパプリカになっている。さらに、写真だと、同じ鴨の絵がテープで貼ってあるように見えるが、これはイリュージョンの画中画である。
また、本物の千円札を蝶の形に切って構成した作品もある。蝶の羽には大きな目が描かれていて、鑑賞者を見つめ返している。お金への屈折した思いも読み取れる作品である。
小野絢乃
小野絢乃さんは2000年、愛知県生まれ。愛知県立芸術大学美術学部日本画専攻在籍。日本画を学んでいる若手らしく、日本の伝統絵画と、漫画、現代美術、アニメーションの要素を意識した作品を展開している。
パノラミックな画面には、日本刀をもって動き回るセーラー服姿の人物と燃えさかる大男の緊迫した場面がコミカルに描かれている。異なる時間の流れが横長の空間に合成された趣である。
ほかに正方形の作品と、シンプルなドローイングも展示。謎めいたテイストとユーモアの感覚に引き込まれる。
川西りな
川西りなさんは1997年、徳島県生まれ。愛知県立芸術大学大学院美術研究科美術専攻油画・版画領域在籍。2020年に、名古屋市民ギャラリー矢田で開催された愛知の3美大の若手作家展motion#5展に出品している。
絵画ととともに立体を出品しているのは、2年前のmotion#5展と同様である。今回も、さまざまな実験的な取り組みを気負わず自然体で試しているところがある。
一番の特徴は、極めて目の粗い麻布に描いていることである。ほとんどネットに近い感じで、向こう側が見通せるほどである。モチーフの顔は記号化された自画像。シンプルな線描のイメージをだぶらせたり、イラスト風にしてユーモアを混ぜ込んだりしていて、センスの良さを感じさせる。
佐藤萌世
佐藤萌世さんは1999年、愛知県生まれ。名古屋芸術大学アートクリエイターコース卒業。
布、綿、針金、糸で作った立体である。子宮内のような空間にお腹の膨らんだ妊婦が入っている。
羊水の中に浮かぶような妊婦は、目を閉じ、世界について静思しているようである。周辺には、小さな人型が浮かんでいる。胎児と妊婦、母と子の関係が入れ子構造になっているような作品である。
林みらい
林みらいさんは1999年、三重県生まれ。2022年、名古屋造形大学美術コース(洋画)卒業。集合写真、記念写真をめぐるささやかな非日常的な時間を写真や映像にしている。
今回は、夕方、地元の三重県鈴鹿市の砂浜を散歩している見知らぬ人に、「海を背景に写真を撮らせてほしい」と呼びかけ、撮影するプロジェクトである。声かけから撮影が終了するまでの時間を作品化。実際には、写真のフレームからぎりぎり被写体を外して撮影しているので、写真に人物は写っていない。一方、被写体と林さんの撮影についてのやりとりは、音声で流れている。
撮る側と撮られる側、連続する時間とスチルのイメージ、世界とフレーム、存在と不在の関係をコンセプチュアルに探求した試みである。
平山亮太
平山亮太 さんは1999年、愛知県生まれ。名古屋芸術大学メディアデザインコース卒業。
お盆のお供えであるさつまいも、きゅうり、なす、昆布、海苔などを見本のようにケースに収めた展示である。同時に、平山さんは、これらの作品をNFTにして公開している。見本として展示した野菜、昆布などは、生前の悪行で餓鬼となった霊魂や、無縁仏など供養されない死者に対する代理供養の法要プロジェクトとして、2022年7月22日に愛知県一宮市の妙興寺塔頭、来薫院である「施餓鬼会」で供えられる。
NFTの販売収益は、施餓鬼会に寄付される。NFTの購入者は、このアートプロジェクトに関わるプロジェクトチャンネルに招待される。
松葉奈々帆
松葉奈々帆さんは1999年、岐阜県生まれ。名古屋造形大学洋画コース卒業。
日々の睡眠時間と起きている時間を絵画に記録した、デイト・ペインティングをも想起させる絵画である。「正」の字を使った画線法で、1日ごとに何分眠ったかを画面に定着させている。
1つのキャンバスに、1日1440分(60分×24時間)を「正」の字288個分として色面を削って表し、その後、眠った時間を塗りつぶしている。短時間のまどろみなど、夜の睡眠以外も表現されているのが面白い。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)