masayoshi suzuki gallery(愛知県岡崎市) 2021年6月5日~27日
井土英世志/ 杉山有希子/ 佐藤温/ 水野シゲユキ/ 宮本宗
《BEYOND THE END》(「終わりの向こうへ」)と題された5人のグループ展である。タイトルに合わせ、絵画、写真、立体、インスタレーションが1階と地階に展示された。
出品者は、井土英世志さん(写真)、 杉山有希子さん(写真)、 佐藤温さん(絵画)、水野シゲユキさん(立体)、 宮本宗さん(立体・インスタレーション)である。
コロナによって経済活動や人の移動が抑制され、世界が混迷を深めている。廃墟のイメージなど終末観が漂う作品には、当たり前だった生活や価値観が脅かされ、先が見通せなくなった不安が反映されている。
もっとも、ギャラリーの企画者は、こうした作品を展示することでトラウマ的な因果論を提示したいわけではない。むしろ、そんな今だからこそ、これからの世界をどうつくっていくのかという目的論的な課題を投げかけている。
2018年12月から2019年1月にかけ、東京・渋谷区立松濤美術館で開催された展覧会「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」に通じるところがある。
「廃墟」は西洋美術で繰り返し描かれてきた題材でもあり、近代以降の日本にも引き継がれた。今回集められた、その末裔ともいえるイメージに、ギャラリーの企画者は、流れる時間の中での滅びの光景と再生を見据えている。
私たちの想像力と行動によって、未来はいかようにも変えられる。アートは、見る者の中にそのことを喚起できるはずであると。
masayoshi suzuki galleryでは、コロナ禍前の2019年1、2月にも、グループ展「未来の廃墟」を開催している。そのときは、今回も出品した水野シゲユキさんのほか、池原悠太さん、小川昌男さんの作品で構成された。
《廃墟》は、かつての文明の痕跡、栄華の挫折の結果であり、そこに私たちは歴史の教訓を見ることになるが、それは、因果論的な消滅、終末のみを運命づけるわけではない。
蕾(つぼみ)の崩壊が花の生成であり、散る花びらは種子の結実を祝福する——。
企画者は、画家の宇佐美圭司さんがは2000年に著した『廃墟巡礼』(平凡社新書)から、この言葉を引用している。
廃墟、消滅のイメージから、本当の希望を見つけるのが趣旨である。
井土英世志
井土英世志さんは愛知県岡崎市を拠点に活動する写真 家である。
今回は、山間部で土砂崩れ防止のために施工された法面のコンクリートをアップ気味に撮影。隙間から生えた小さな雑草を面相筆で彩色した作品である。
長い年月を経たコンクリートの法面は、変色、クラック、汚れ、風化によって劣化を極めている。崩壊の予兆をはらんだモノクロームのざらついたコンクリートと、そこから、かぼそく伸びる命の色彩が対比を印象付ける。
杉山有希子
杉山有希子さんは1985年、京都市生まれ。2011年に金沢美術工芸大学の彫刻専攻 (菅木志雄ゼミ) 修士課程を修了。京都市を拠点に制作を始めた。 彫刻家としての活動のほか、2017年から写真作品を発表し、高く評価されている。
展示されたのは、2017年から取り組んでいる 「CRASH」シリーズの写真。飛行機や船、自動車が打ち捨てられた国内外の3カ所で撮影された。
その1つが、米国ロサンゼルス郊外のモハべ砂漠に遺棄された爆撃機の残骸。ほかに、米国ニューヨークの船の墓場、京都の鞍馬山に捨てられたクラシックカーがモチーフである。
「CRASH」は、衝突事故を意味するのではなく、人間が残した人工物と自然との相互作用を表している。
人工物と自然のそれぞれが際立って可視化されるように、近赤外線カメラを使用している。
植物が白く写されるなど、人工物と植物の物質的な違いが浮き彫りにされ、過去の産物と現在を生きる植物の生命が対比される。
役割を終え、人間が不要だと判断して捨てた人工物は、過酷な自然の循環の中に自らを委ねるしかない。
普段、目にすることがないそれらは、自然のサイクルにさらされながらも異物として存在感をあらわにし、リアルなディストピアとなって訴えてくる。
自然の中で、私たちの「身体」の分身であるように存在し、人間社会や科学の儚さ、危うさとともに未来の予兆となって立ち現れているのである。
佐藤温
佐藤温さんは1987年生まれ。 岐阜県立高山工業高校卒業。 岐阜県飛騨市在住。
漫画やアニメから刺激を受けながら、20歳前後から発表し、ギャラリー椿(東京)などで個展を開いている。
とりわけ、大友克洋や寺田克也からの影響があるようである。
懐かしさも感じさせる近未来的な世界、テクノロジーと機械、建造物などをモチーフを描いたSFファンタジーである。架空の世界観の中に終末論的な雰囲気もにじませる。
水野シゲユキ
1960年、愛知県豊田市生まれ。同市在住のプロモデラー である。2014年、masayoshi suzuki galleryで個展「朽-残骸の美学-」を開いている。
筆者は、名古屋港10号倉庫で開催されたグループ展「12LOGERS」(2000年)などで、現代美術家としての水野さんの作品を印象深く見ている。
アート出身でありながら、プラモデル、情景模型、廃墟などのジオラマへと展開させ、それらをアートの域へと逆展開させる可能性を秘めた作品ともいえる。
錆びた金属素材の表現など、造形と塗装で朽ち果てたイメージや、風化した物質感を精巧に再現している。
宮本宗
宮本宗さんは1985年、三重県生まれ。2012年、愛知県立芸術大学大学院彫刻領域を修了した。
緻密に再現した鉄塔や、クレーン、油圧ショベルなどの機械と人体が融合したような造形を制作している。「都市の方舟/Arc of The City 金山南ビル美術館棟でオンラインアート展」も参照。
今回は、鉄塔などの立体を配した地下の空間で映像を投影するインスタレーションである。
映像は、宮本さんが栽培に取り組む農園を撮影。その中で、ダンサーがパフォーマンスを繰り広げている。
パフォーマンスは、1つの生態系をもち、循環する農園を活性化させる儀式的行為である。生命が無機質な物質と一体化するように進化したイメージのオブジェなども置かれ、全体で、終わりの後の始まりが暗示されている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)