ギャラリーサンセリテ(愛知県豊橋市) 2021年2月6〜23日
ムーヴメント
戸次祥子さんは1979年、大阪府出身。大阪大で教育学を、京都造形芸術大通信過程で主にグラフィックデザインを学び、木口木版の世界に入った。2023年のサンセリテでの個展レビューはこちら。
2007年、結婚を機に愛知県に転居。豊川市を拠点に制作している。
本の装画などのほか、岐阜県郡上市の辰巳蒸溜所(芸術批評誌REAR No.42「透明なまなざし、蒸留する手」でも紹介されている)にラベル画も提供している。
山に登り、拾ってきた小石を小口木版で彫っている。
とても繊細、細密な作品である。
「石は山の分身」という。刷られた硬質な石のイメージに視線を沈めると、そこに山の透明な空気、緊張感、ピュアな存在感とともに、自然の豊かな表情、石が内在させる遠大な時間、地球、果ては宇宙を見ている気がする。
小さな作品に、とても大きな世界を感じる、そんな作品である。
クラウド・チェンバー
第1〜8番の作品があり、それぞれに「穂」「目」「舳(へさき)」「灯」「軌」「宿」「風」「山」 のタイトルがある。
蛇腹折りになった本バージョンと、シートタイプがある。
蛇腹折りのシリーズは、福島県須賀川市のCCGA現代グラフィックアートセンターで2020年7月4日~9月6日にあった「共鳴する刻[しるし]―木口木版画の現在地」に展示された。
この作品は、福島の海岸で拾った自然石がモチーフ。これらの小石を観察し、対話するように制作された作品である。
クラウド・チェンバーは、放射線を可視化する実験装置。東日本大震災の福島原発事故が想起される作品である。
なんということもない海岸の小石。戸次さんは、震災から10年が過ぎても消えることがない小さな光と影、声、記憶を感じたのである。
会場には、モチーフとなった小石も展示された。
戸次さんは、これらの小石に、山並みの稜、斜面、窪地、沢、そして、自然と大地、大気の循環、宇宙を見る。
キクロス
雲の芽
空の露
はつみず
分室
「分室」は、3枚1組のプレス機刷り。
フィラメント
クオーツ
レインゲージ
板を使い、木の葉などでイメージを作った小品のシリーズもあった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)