アッセンブリッジ・ナゴヤ2020 12月13日まで
音楽と現代アートの芸術祭「アッセンブリッジ・ナゴヤ2020」が2020年10月24日〜12月13日(木曜、金曜、土曜、日曜、祝日オープン)、 名古屋港〜築地口エリア一帯で開かれている。
3回目は、上田良さん、丸山のどかさんの作品を紹介する。
1回目の「ミヤギフトシ アッセンブリッジ・ナゴヤ 12月13日まで。現代美術展レビュー①」も参照。
2回目の「三田村光土里・折元立身 アッセンブリッジ・ナゴヤ 12月13日まで。現代美術展レビュー②」も参照。
プログラムの全体は、「アッセンブリッジ・ナゴヤ2020 アーティスト、プログラムの全容を発表」を参照。
上田良
上田良さんは1989年、大阪府生まれ。 神奈川県在住。2015年、「キヤノン写真新世紀」佳作 、2017年、「VOCA展2017 現代美術の展望—新しい平面の作家たち」奨励賞。Lights Gallery(名古屋)で2019年にあった展示については、「二人展 上田良・澤田華/テキサス・ヒットがやってくる」を参照。
自身の作品発表のほかに、アーティストユニット「THE COPY TRAVELERS」の一員として、「複製」という手法の可能性を追究している。
2020年夏、「MAT, Nagoya Studio Project」に参加し、1カ月ほど、港まちに滞在。今回は、その期間中に制作した風景や、まちの要素を取り入れた新作を中心に展示している。
上田さんの作品は、港まちポットラックビルと、旧・名古屋税関港寮に展示。ポットラックビルは、写真作品が中心である。
今回は、上田さんが「ドッキング塀」と名付けた戦前と戦後の塀がつながる風景を捉えた写真が基点になっている。
上田さんは、別々の場所に存在した身近な物、取るに足らない物や廃材を構成した《風景》を写真に収め、物がオブジェ、彫刻として立ち現れながら、平面/線/色彩が新たな関係を結ぶようなユニークな作品を展開している。
物と物、平面と平面、空間相互がある時、ある場を共有するような、豊かな色彩感覚と独特の構図を伴った一瞬の《風景》を切りとる。
それぞれの物は、意味や文脈でなく、その色彩や質感、形、線など形式的な特徴から組み合わされている。
それらは、写真という平面に溶け込み、別の素材との関係性を結ぶことで本来の姿を変容させ、別の存在感をまとう。
1つ1つはチープで粗末なパーツを組み合わせた儚いオブジェ/彫刻を平面化したような作品である。
それでいて、それぞれの物は、写真の中で、微妙なバランスでつながり、支え合っている。仮設的な《風景》が平面の中で、平板であることから逃走するように生き生きとしている。
《平面のオブジェ》と《オブジェの平面》を行き来するように、写真とオブジェ/彫刻が拮抗している。
異なる時期に描いたドローイングを切り貼りして組み合わせたシルクスクリーン作品もある。
また、初めてという映像作品は、オブジェの写真作品を動画に展開させている。映像の中の素材が風に揺らぐなど、かすかにうつろう空間が写真とは異なるテイストを醸し出していた。
一方、旧名古屋税関港寮には、何枚もの写真を立体に貼った《Xの構造体に貼り付いたオブジェ》や、滞在中に日課として読んでいた地元の中日新聞から、気になる記事を選んで絵日記のようなドローイングにし、映像としてつないだ作品《アクセス・シティ》があった。
《アクセス・シティ》では、新聞として読むと、なんということもない記事が、本来の場所から引き離され、ドローイングや映像に置換される。
文字情報がイメージへと変容し、記事が読み上げられることで、異質なものへと、ずれていく感覚があって面白い。
上田さんの世界では、いずれも、普段出合うことのない物や、異なる時間、空間、イメージなどが結びつき、予期せぬ異次元の感覚を生み出していくのである。
丸山のどか
丸山のどかさんは1992年、新潟県生まれ。愛知県在住。2016年に愛知県立芸術大学美術学部美術科彫刻専攻卒業、2018年に同大学大学院美術研究科美術専攻彫刻領域修了。
今回は、名古屋の地域性から感じ取った話題と、個人的な経験にまつわるエピソードを重ね合わせたというインスタレーションを発表した。
ファン・デ・ナゴヤ美術展2019での個展「風景をみる/風景にみる」(市民ギャラリー矢田、愛知、2019年)を見逃し、丸山さんの作品を見るのは今回が初めてである。
ベニヤや角材など、製材された木材を用いて、中華料理店や雀荘のテーブルや椅子、観葉植物など、全てを木材で立体化するという作品である。
普段の生活に密着した何気ない風景が丸山さんのモチーフ。シンプルながら、白昼夢のような空間がユニークである。
実寸、精巧な造形によって現実の空間を単純化し、虚構化しているのだが、脱色したような優しい中間色と、素材の温かみが独特の世界を生み出している。
丸山さんのインスタレーションの特徴は、ベニヤや角材などの均質化された表面、単純化し、細部を角ばらせた造形、少しスモーキーな眠い色彩にあるだろう。
つまり、リアルであると同時にリアルでない。美術館やギャラリーなどの展示空間でなく、実際に使われていた寮にあることで、リアルであることが錯綜する。
寮の庭に置かれた中華料理店と雀荘の看板が、終わってしまった世界の廃墟のような雰囲気も出している。
はっきりとした輪郭、単純化、抽象化、平明化された精緻な立体なのに、つかみどころのない浮遊感が、人間がいるはずのない幻のような非現実感を伴っている。
作品は、丸山さんが学生時代にアルバイトをした中華料理店とその上階にあった雀荘がモデルという。
全くの余談だが、おそらく、モデルは名古屋の藤が丘駅近くにあった「中華楼」と雀荘の「国際」だろう。偶然だが、そこは筆者が家族で頻繁に訪れ、筆者が餃子と生ビールを楽しむ店だった。