L gallery(名古屋) 2024年8月10日〜9月8日
阿曽藍人
阿曽藍人さんは1983年、奈良県生まれ。金沢美術工芸大学大学院修士課程美術工芸研究科陶磁コース修了。常滑市立陶芸研究所修了。
土を焼いて、立体やインスタレーションを制作する造形作家である。現在は、岐阜県美濃加茂市の工房で制作している。
2015年の「愛知ノート ー土・陶・風土・記憶ー」(愛知県陶磁美術館)、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015」(新潟)、2021年の美濃加茂市民ミュージアムの「現代美術レジデンスプログラム 阿曽藍人 Inner Land 内なる大地へ」などに出品している。
Lギャラリーでの個展は2022年が初めてで、今回は2回目。
美濃加茂市では、インスタレーションを中心に展示している。陶や土を使ったインスタレーション、造形ということで言えば、7月に亡くなった伊藤公象さんをほうふつとさせる。
また、正方形(グリッド構造)、球体や立方体、直方体、柱状構造など、ミニマルで、プライマリーな形態を好むのも阿曽さんの特徴である。
籾殻が燃えて炭化した黒色が吸着した阿曽さんの黒陶は、縄文時代へとつながる野焼きの発想が原点になっていて、プリミティブである。
このミニマルで洗練された現代性と、原初性が阿曽さんの作品の魅力であるといえる。
静寂と振動
今回も出品された、正方形の薄い陶板をグリッド状に展開した矩形の平面作品は、美濃加茂の展示では、ダイナミックにさまざまなバリエーションが展示された。
型枠を使って薄く焼成した後に、籾殻の中に投入して、炭を吸着させ、その濃淡と土の繊細な肌理、偶然性による黒色の沈着のグラデーションと模様によって、自然の絵画のような雰囲気を醸している。
1つ1つの矩形の微妙な表情の違いと、それらがグリッドに並べられたときの全体性を見ると、土質や焼くときの温度などさまざまな条件、そして偶然性によって生まれた豊かさを恩寵のように感じられる。
オブジェ的な作品も数多く展示されている。
シンプルでありながら、どこか曖昧で柔らかさを持った形態が多かった前回2022年の作品と比べると、今回は、球体や立方体、直方体などプライマリーな形態が組み合わされた構成的な性質が増して、幾何学的でシャープになった気がする。
また、球体とそれを反転させた空洞、すなわち、プラスとマイナスの関係が随所に見られる。
作品に装飾性がないだけに、形態と空間の関係が明快に意識され、それゆえに作家の探究心がストレートに伝わってくる。
阿曽さんの作品を見ると、土素材や、ニュートラルな黒色、野焼きの発想などを含め、自然の全体性の豊かさ、多様性をそのまま受け止めようとしている感覚が見て取れる。
だから、形が幾何学的になっても、あるいは、インスタレーションとして空間や屋外に置いても、異化的な違和感はなく、むしろ、空間や世界の美しさ、温かみ、広がりを気づかせ、引き立たせ、その息づかいを感じさせる。
つまり、近代的な二元論の発想ではないのだろう。むしろ、自然といかに交感するか、大地や地球、自然のありようをどう受け止めるか、というプリミティブな発想がそこにはある。
それは個々の人間の思考や都合、気分に無関心な大地や地球、自然のように、あらゆるものを受け止めてくれる柔らかな力と寛容さと言ってもいい。
これらの作品を見ていると、たとえ小さなサイズであっても、自分を超えたもの、自分を見つめ直すための大きさと広がり、温かみを感じることができる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)