L gallery(名古屋) 2022年10月22日〜11月6日
阿曽藍人
阿曽藍人さんは1983年、奈良県生まれ。金沢美術工芸大学大学院修士課程美術工芸研究科陶磁コース修了。常滑市立陶芸研究所修了。岐阜県美濃加茂市内の工房で制作している。
2015年の「愛知ノート ―土・陶・風土・記憶―」(愛知県陶磁美術館)、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015」(新潟)などに出品。
2021年には、美濃加茂市民ミュージアムで開催された「現代美術レジデンスプログラム 阿曽藍人 Inner Land 内なる大地へ」に参加した。レビューはこちら。
Lギャラリーでの個展は初めて。筆者は、美濃加茂市での展示を見ているが、ギャラリーでの個展で作品に触れるのは初めてである。
美濃加茂市では、屋内外でのインスタレーションが中心。土を焼いているが、いわゆる陶芸とは趣きが異なる。より原初的で野趣がある大掛かりな作品であった。
具体的には、球、柱状の構造物などのプライマリーな形態を空間に配置したインスタレーション、正方形の薄い陶板をグリッド状に反復展開した平面作品などである。
今回は、そうした作品のほかに、ギャラリー空間に、サイズを抑えた多様な作品を展示している。
それらは、球、柱、器、高杯、板、箱などから派生した形を基本としながら、用途を限定しない、あるいは、そもそも用途のない物体である。全体には、黒陶が多い。力強く、質素ながら多彩な表情が魅力である。
土質の違いや、土から陶への変化の過程で現れる質感と色彩、表情を露わにする。その繊細かつダイナミックな作品は空間に作用し、自然や大地、あるいは人類の歴史をめぐる内なる沈潜へと誘う。
“土のなごり”
なぜなのか。それは、個展タイトルの「土のなごり」に顕著に現れている。
陶芸は、土から陶へという焼成によって成り立つ工芸である。阿曽さんの作品では、まず、野焼きを含め、低温で焼くことで土の感触を残している。また、先ほども書いたように、プライマリーな形態を基本としていることが大きな特徴である。
縄文土器が作られた方法でもある野焼きでは、窯がないので、温度はせいぜい600-800度ぐらいである。阿曽さんの作品も、1000度を超えない程度でつくっているようだ。窯で焼く陶器は1250-1300度、磁器は1400度ぐらいまで上がる。
籾殻が燃えて炭化した黒色、あるいは、土色が繊細な表情、質感を生み出し、釉薬で装飾しないため、プレーンで力強い印象を与える。
縄文時代前の旧石器時代は、まだ土器がない時代である。つまり、阿曽さんの作品は、縄文時代へとつながる原初の野焼きを原点に、作品を作っている。
それらは、陶板、あるいは、土の造形物によるインスタレーション、土器、彫刻のような作品だが、いずれも、それゆえ、陶のオブジェというより、土のなごりのあるプリミティブなものになっている。
釉薬による装飾がないだけでなく、形態が球、柱、板、器物などシンプルゆえに、作品の本質がストレートに空間に働きかけ、大地へ、自然へ、古代へと、空想力をかきたてる。
つまり、阿曽さんの作品は、土器をベースにした洗練されたミニマルなものである。
そして、焼成され可塑性を失った陶の中に土の質感を残し、土と炎の原初的な関係を想起させるのである。
肉厚な作品は、特に生々しい土の感触が残っていて、やきものというより、木のようにさえ見える。
一部の作品は、袋状の構造から、中の空気を押し出すようにして造形しているようである。
このあたりは、やきものの造形過程として、とても興味深い。
そのプロセスが、作品の独特のフォルム、微妙な起伏感、肉厚でおおらかな形態につながっているはずである。次回、じっくり取材したいのは、そこである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)