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阿曽藍人 美濃加茂市民ミュージアムで10月31日まで

現代美術レジデンスプログラム 阿曽藍人

 岐阜県美濃加茂市の美濃加茂市民ミュージアムで2021年10月1~31日、「現代美術レジデンスプログラム 阿曽藍人 Inner Land 内なる大地へ」が開催されている。観覧無料。展示はすべて撮影できる。

 同ミュージアムでは開館以来、「芸術と自然」をテーマに現代美術家を招き、滞在制作の成果を発表する展覧会を企画してきた。

 今回取り上げるのは、美濃加茂市内に移住して工房を構える美術家の阿曽藍人さんである。

 1983年、奈良県生まれ。金沢美術工芸大学大学院修士課程美術工芸研究科陶磁コース修了。常滑市立陶芸研究所修了。

阿曽藍人

 現在は、土を素材にしたインスタレーションを中心に屋内外の会場で発表している。

 2015年の「愛知ノート ―土・陶・風土・記憶―」(愛知県陶磁美術館)、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2015」(新潟)などに出品した。

 陶の球体を空間に配置したインスタレーションや、正方形の薄い陶板をグリッド状に反復展開した平面作品で知られる。

 それらは、土質の違いや、土から陶への変化の過程で現れる質感と色彩、表情を露わにする。その繊細かつダイナミックな変容は空間に作用し、見る者をマクロとミクロが交差するイマジネーション、自然や大地をめぐる内なる沈潜へと誘う。

Inner Land 内なる大地へ

 2014年から2021年までに制作された旧作、近作、新作13点がまとめて展示された充実の内容である。

阿曽藍人

 展示室に入ってすぐの壁面にあるのは、横幅10mを超える長大な作品である。

 美濃加茂の工房で制作された新作で、包みこまれるようにその場にたたずむと、瞑想的な気持ちに誘われる。

 泥状の陶土を型枠に注いで薄く焼成したものを窯から出した直後に籾殻の中に投入。繊細な模様と色合いを出している。

阿曽藍人

 越後妻有アートトリエンナーレ2015で展示された作品は、新潟県十日町市の土を使っている。

 いわゆる陶芸には向かない土質なのだろうが、荒々しくひび割れた表面が野趣あふれた表情を見せている。

阿曽藍人

 一方、常滑の土で制作された作品は、きめ細かく、同時に力強い多彩な表情が魅力である。

 古来の大型の壺や甕、あるいは土管、朱泥の急須で知られる日本六古窯の一つ、常滑の幅の広さ、奥深さと通じるものがある。

阿曽藍人

 美しい赤土のグラデーション、荒削りな味わい、割れ、変形など、まさにダイナミズムと繊細さが共存している。

 美濃の土を使ったという作品は、白っぽい色調の中に焦げた微妙な表情がついて、張り詰めたような静寂が内なるエネルギーをたたえている。

阿曽藍人

 薄いグリッドの陶板を縦横につなげる展示手法は、大型作品を制作するのに適しているのみならず、土から陶への変容を連続性と断絶性の中に見せることによって、大宇宙、小宇宙を交差させる効果も生んでいる。

 新作《Inner Forest》は、森に囲まれた美濃加茂市民ミュージアムの立地も意識し、展示室に展開した「森」である。

阿曽藍人

 ここでは、いくつもの陶による球体と柱で「森」が構成され、美しい空間に仕上がっている。

 これまで、阿曽さんは、土の球体を屋外に展開するインスタレーションを各地で見せてきた。今回は、初めて、室内空間で、球体を、木立を連想させる柱状構造と組み合わせた。

 他方、《土の玉》は、ミュージアムの向かえにある実際の森に土の球体を配置した屋外インスタレーションである。

 自然の森の木立と、自然物からつくられたとはいえ、人為による幾何学的形態である球体との関係が、《Inner Forest》とのアナロジーにおいてイマジネーションをかきたてる。

阿曽藍人

 筆者にとっては、球体が森の中のインデックスとなって、森の深度、自然の奥深さ、豊かさをより強く意識させるように作用していると感じられた。

 つまり、《Inner Forest》においては、屋内空間の中で、土の球体や柱が人工的な「自然」を連想させ、逆に《土の玉》では、土の球体が人間のつくった「人工物」として森に介入し、自然の深度を意識させる。

 このアナロジーによって刺激される想像力が、これらのインスタレーションの魅力である。

 阿曽さんは、土から陶へという変容に寄り添いながら、根源的な自然を見つめ、人間と自然との関わりについて、時空を超えた思索へと導いてくれる。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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