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鈴木薫 noise cancelling

ART MEDIUM(名古屋) 2019年9月21日〜10月20日

 ART MEDIUMは、あいちトリエンナーレ2019の開催期間に合わせ、YEBISU ART LABOと同じ4階フロアに開設された実験的なスペースである。

 鈴木さんは1968年愛知県豊橋市生まれ。筆者が勤める新聞社の東京本社で整理記者として働きながらアーティストでもあるという異色の存在である。

 アートに目覚め、京都造形芸術大の通信教育部を卒業。ゲンロン カオス* ラウンジ 新芸術校の第1期生でもあるので、「あいちトリエンナーレ2019」の出品作家、弓指寛治さんと同期である。昨年、YEBISU ART LABOで、墓じまいをテーマにした個展を開いた。

鈴木薫

 今回、鈴木さんがテーマにしたのは「水」。

 しかも、東日本大震災で原発事故が起きた福島の汚染水を結び目に、水の循環と人間というテーマに引き寄せている。

 作品は、2つの映像を中心としたインスタレーション。正面には、「海に降る雨」と題された太平洋の映像が投影され、手前のモニター画面には、コップに満たされ、表面張力で盛り上がった水が映されている。

 循環する巨視的な水と、私たちが生きるために口にする生活の中の水が対となってそれぞれループされ、それらを水平線がパラレルになるように投影することで、地球的なレベルの海洋水と暮らしの中のコップ一杯の水をつながりのあるものとして印象付けている。

 床には、アルミニウム製のダクトが這い回り、水の流れの音が響いている。壁には、そうした問題意識と連動するものなのか、さまざまな色彩の絵の具を矩形にベタ塗りしたおびただしい数のドローイングが飾られ、さらに会場の入り口付近には、目が眩むような光のインスタレーションがある。

 こうして、いくつかの要素がインスタレーション全体を構成する装置になっているが、背景にあるのは、東日本大震災での福島第一原発事故である。

 鈴木さんは、福島県いわき市を出発し、国道6号を海岸沿いに北上。井出川、富岡川、熊川、葛尾川、小高川、新田川、真野川という阿武隈山地から浜通りへ、すなわち西から東へ流れる7河川を辿り、川面にマイクを近づけて音を採取した。

 アルミダクト7本の先端に置かれたスピーカーからは、これら7河川の流れの音が響いている(ダクトには、それぞれの川の名前のタグが付いている)。

 海の映像は、福島県楢葉町の高台から撮影した眺めである。楢葉町の北東端には、福島第二原発がある。撮影地点は、事故があった第一原発からも直線で18キロほどしか離れていない。

 また、鈴木さんがメールで問い合わせたところ、第一原発の敷地内には、その時点で、放射性物質を含んだ汚染水のタンクが970基もあった。

 壁に展示されたドローイングは、その数と同じ970点あり、タンクをイメージしたものであることが分かる。ものすごい数である。そして、タンクの数は今も増え続けている。

 大きな循環の中で巡る水、その生きるための根源が汚染され、退っ引きならない状況にあることが改めて提示される。

 東京や名古屋などにいると、東日本大震災のニュースを目にすることは、よほど注意深くしないとほとんどない。

 その中で、最近、報道されているのが増え続けている汚染水で、その処理水については海洋放出も話題になっている。

 距離をもって風景を眺めると、ホワイトノイズとなった一様な響きは、私たちの耳にメッセージとして届くことがない。

 鈴木さんは、今一度、一つ一つの川の音のシグナル、すなわち、私たちの生きることに直接関わる、「水」の発するシグナルに耳を傾けたのである。キャリアがまだ乏しく、荒削りではあるが、問題意識の手触りがあり、骨のある展示である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

鈴木薫
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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