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荒木由香里個展 よりよき世界のかけら アインソフディスパッチ(名古屋)で2023年9月2-23日に開催

AIN SOPH DISPATCH(名古屋) 2023年月9日2日〜23日

荒木由香里

 荒木由香里さんは1983年、三重県生まれ。名古屋芸術大学美術学部造形科卒業。

 AIN SOPH DISPATCHでの個展(2020年度の愛知県芸術文化選奨新人賞の受賞記念展として開かれた2021年個展レビューはこちら)のほか、2009年、「アーツチャレンジ2009 新進アーティストの発見in愛知」(愛知芸術文化センター )に参加。

 2011年には、三河湾の佐久島での個展「星を想う場所」を開催。ほかにも、各地の個展、グループ展で活躍している。

 荒木さんは、ハイヒールや、アクセサリー、カトラリー、調理具、文具、メガネや虫眼鏡、鏡、玩具、方位磁石やファー、チェーン類、工具など、多種多様なものを寄せ集め、緊密に構成したアッサッンブラージュの立体を制作している。

 物の選び方、造形、色彩、美観や世界観、ポエジーなどのセンスがよく、ユーモラスなものからオシャレなものまで作品も多様で、人気の作家である。

よりよき世界のかけら | Fragments of a Better World

 今回の個展タイトルは、ミヒャエル・エンデ 『だれでもない庭 E.Cさんへ』の「より良き世界の破片かけら」から、とっているという。

 荒木さんの作品はほとんどが、人間の作った人工物で作られている。アサンブラージュ自体、フランスの美術批評家ピエール・レスタニーによるヌーヴォー・レアリスムなどによって、工業化における消費文化を背景としているが、荒木さんは、自分の生きる世界から、感性にしたがい物を集め、美しさを際立たせて、巧緻に、ポエティックに作品に反映させている。

 過去には、既製品をビーズで覆ったり、バナキュラーな視点で土地の空気を反映させたり、さまざまな手法で制作してきた。雰囲気も、エレガント、高揚感、官能性、荘厳、儚さ、ロマンチック、ダイナミズムなど、多様である。

 今回は、女性性、繊細さとともに強さ、構築性、危険な香りをも持つハイヒールを中心に、モノトーンシリーズと、天井から吊った作品群などで、インスタレーションとして見せている。

 モノトーンの色彩とハイヒールを軸に組み合わせたスタイリッシュな形態が印象的である。

 日常から切り離されたものが劇的な異化作用を生んでいるが、今回は、とにかく美しい作品に仕上がっている。

 同じ色彩のものを集めることで、逆に、それぞれの形やデザイン、微妙の色相の違いが粒立つように強調される。

 本来の意味を剥ぎ取られながらも、それぞれが小さな存在の声を届けてくれるようだ。つまり、荒木さんが無作為に受け入れ、寄せ集めたものでありながら、作品自体が、そして、その構成要素のそれぞれが、自分を語っている。

 それらの中には、自宅にあるような何気ない物、鑑賞者の過ぎ去った過去を想起させるような懐かしい物もあれば、普段の生活ではお目にかかれない物もある。

 自然のものでなく、人間が作った物であっても、そこに何かが宿っているということに気づかせてくれることがある。荒木さんの作品はまさしくそうだ。

 小さな物の形が、線や面が、色が、質感が、互いを寄せ合うことでそれぞれの魅力、つまり宿しているものを自ら語ってくれる。無理もせず、自分ができることのみをささやかに見せてくれている。

 そして、荒木さんが造形した形と姿によって、そんな物たちが、なぜ、そうなったのか分からないような関係を結び、新たな「いのち」を生きている。

 ビッグバン以来、あらゆる物質を作る元素は、星の中で生まれ、宇宙に散らばり、人間を含め、この地球の全てが星のかけらでできている。

 星のかけらから、人間の道具へ、そして、新たないのちへ。そんな記憶とともにある作品である。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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