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下家杏樹 ノダコンテンポラリー(名古屋)

NODA CONTEMPORARY(名古屋) 2020年9月25日〜10月17日

下家杏樹

 下家さんは2020年に、名古屋芸大大学院を修了したばかりの新人。今後が楽しみなペインターである。

 イラスト的、漫画風の作品だが、実際の作品を見ると、伸びやかに油絵具を載せている。線も色彩も美しい。しっかり油絵具を使いこなし、油絵特有の古典技法を駆使している。

下家杏樹
ツムジカゼ

 アクリルを使うこともあるが、基本はこの油絵具の感触を好んでいる。

 写真だと、乾いたフラットなイメージに見られかねないが、油絵具を丁寧に塗り、線に対して意識的であることから、画面に生き生きとした力がある。

下家杏樹
マルチタスク

2021年 だれにもナイショで展 ノダコンテンポラリー

 漫画が好きで、自身でも描いていたという。とりわけ手塚治虫さんの影響があるという下家さんが、油彩画については、吉本作次さんから学んだと聞いて、とてもうなずけるところがある。吉本さんの絵を長く見てきた筆者からすると、影響が感じられる。

 イメージが自在に変形し、変化し、物語的に展開する。生真面目なテーマもなくはないが、基本的には、陽気にさせてくれる作品である。

下家杏樹
知恵ちゃん

 画面に登場する子供たち、動物、虫などは、軟体動物のように体が伸び、変幻自在に変化する。まずは、このしなやかな線がとても魅力的だ。

 セピア調の色彩の画面、昭和的なレトロな雰囲気のキャラクターは躍動感があって、とても親しみやすい。

下家杏樹
フュージョン

 モノクロームで描かれた大作「ツムジカゼ」は、獅子舞の中で子供たちが生き生きと動く様子がモチーフ。ゴムのように伸縮するイメージ、雲のように湧き上がる形の線のしなやかさ。

 まさに渦巻くような動感がこの作品を一層元気に満ちたものにしている。

下家杏樹
白の戦争

 具象的なイメージでありながら、その全体あるいは部分の線、形象をそれ自体として抽象的に扱う方法論にも、筆者は、吉本作次さんに通じる闊達さを感じる。

 人間のデフォルメも自由だが、それ以外の物、例えば、風船や雲のような形態が擬人化されたように描かれ、それが画面に活力を与えている。

下家杏樹
水奪い合い

 「マルチタスク」の子供たちや物体の生き生きとした、弾けるような動きは、とても見ていて気持ちがいい。

  「知恵ちゃん」という作品では、少女が描かれているが、顔の背後にある円形は、巨大な蛇の目であるという。どことなく不安感も漂う作品だ。

下家杏樹
投げ網

 これと対のような作品「フュージョン」では、蛇のような影が人物の背後にあるが、その蛇の目の部分が少女の目に重ねられる。蛇は、不安を象徴しているのだろうか。

 蛇の目は、現代人にとって体の一部になるほど常用されているスマホのカメラにもイメージが拡張され、現代社会の世相をも反映している。

下家杏樹
オニムシクン

 さりげなく世界の状況や社会不安を反映させるこうした作品を見ると、下家さんが、漫画風の作品の中に、その時々の主題に対する感情を込めていることが分かる。

 その意味では、透徹した目を外界に向けている作家である。

下家杏樹

 「水奪い合い」は、日本列島への猛烈な台風の襲来の予報があり、水が買いだめされた時の状況がモチーフらしい。

 「オニムシクン」は、コロナ禍で、イモムシになって閉じこもっている自分の姿を描いたものだという。困惑したようなイモムシの顔がかわいい。

下家杏樹

 下家さんの作品では、漫画風の具象画に見えながら、部分に目を転じると、抽象的な形態も少なくない。

 具象と抽象、線と面、面と空間が、しなやかなイメージ、躍動感ある世界の中で往来している。

下家杏樹

 そして、下家さんは、線をとても大事にしている。柔らかい線の近くに硬い線を置く、柔らかい線をよりダイナミックに動かしてみる、そんな連鎖で、豊かな世界を繰り広げる。

 伸び縮みするようなイメージ、緩急のある生き生きとした線がとても魅力的である。

下家杏樹

 そして、もともと漫画を描いていたらしく、画面には物語の全てを1枚に詰め込んだようなクライマックスの感覚がある。

 下家さんの作品にレトロ感があるのは、輪郭を簡潔に、しなやかに縁取りするなど、線や色彩が昭和の漫画風であることも理由にあるだろう。いい意味でそのことも強調したい。

下家杏樹

 自由に、絵が面白くなるように、省略、誇張、変形をし、若々しい瞬発力によって躍動感とともに描く。今後が楽しみである。

下家杏樹

下家杏樹

最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)

下家杏樹
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>文化とメディア—書くこと、伝えることについて

文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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