江戸の人々の動物との関わり合いを紹介
愛知県美術館で2025年4月11日〜6月8日、「どうぶつ百景―江戸東京博物館コレクションより」が開催される。
東京都江戸東京博物館とパリ日本文化会館が2022年にパリで共同開催した「いきもの:江戸東京 動物たちとの暮らし」展を拡充した展覧会。
長く続いた平和を背景に発展した江戸では、人々の暮らしと動物は密接に結びついていた。人々は、犬や猫などを家族の一員としてかわいがり、牛や馬などと共に労働し、鳥や虫の鳴き声から四季を感じ取っていた。

明治10(1877)年に来日した米国の動物学者エドワード・S・モースは、市井の人々がこうした動物を親切に扱うことに驚く。
彼は、親しみを込めて猫を「さん」付けして呼ぶ人々や、路上の動物を避けて通行する人力車の車夫、ぞうりを履き、日除けをつけてもらった荷牛などについて日記に記した。

歌川国芳画「深川佐賀町菓子船橋屋」1839-41(天保10-12)年
(前期展示)東京都江戸東京博物館蔵
人々にとって動物が身近であったことは、さまざまな生き物のかたちを着物や装身具、玩具のデザインに取り込んだことからも読み取れる。
東京都江戸東京博物館の珠玉のコレクションのなかから多様な美術作品、工芸作品を展示し、江戸・東京の都市空間における人と動物の関わり合いを紹介する。

歌川広重(三代)画「鉄道馬車往復日本橋之真図」1882(明治15)年
(前期展示)東京都江戸東京博物館蔵
開催概要
展覧会名| どうぶつ百景―江戸東京博物館コレクションより
Animals, Animals, Animals! From the Edo-Tokyo Museum Collection
会 期| 2025年4月11日(金) 〜6月8日(日)[51日間]
前期:4月11日(金)〜5月11日(日)
後期:5月13日(火)〜6月8日(日)
開館時間| 10:00〜18:00 金曜日は20:00まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日| 毎週月曜日(ただし5月5日は開館)、5月7日(水)
会 場| 愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
〒461-8525 名古屋市東区東桜1-13-2
美術館ウェブサイト https://www-art.aac.pref.aichi.jp/
アクセス| 地下鉄東⼭線・名城線「栄」駅/名鉄瀬戸線「栄町」駅下車、
オアシス 21 連絡通路利⽤徒歩3分
主 催| 愛知県美術館、東京都江戸東京博物館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、中日新聞社、NHK名古屋放送局、NHKエンタープライズ中部
制作協力| NHKプロモーション
問合せ先| 愛知県美術館 TEL 052-971-5511(代)

歌川豊国(三代)・歌川国久画「江戸名所百人美女の内 四ツ谷」
1858(安政5)年(後期展示)東京都江戸東京博物館蔵
チケット
チケット| 一般 1,500(1,300)円、⾼校・⼤学生 1,000(800)円、中学生以下無料
※( )内は前売券および20 名以上の団体料金
※上記料金で本展会期中に限りコレクション展も見ることができる
※身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳(愛護手帳)、特定医療費受給者証(指定難病)のいずれかのある人は、通常料金の半額で観覧できる。付き添いの人は、各種手帳(「第1種」もしくは「1級」)または特定医療費受給者証(指定難病)がある合、いずれも1名まで通常料金の半額で観覧できる。当日会場で各種手帳(ミライロID可)または特定医療費受給者証(指定難病)を提示。付き添いは申し出る
※学生・生徒の方は当日会場で学生証(生徒手帳)を提示
※複数の割引の併⽤はできない
※販売期間は、前売券 2025年3月1日[土]~4月10日[木]/当日券 展覧会会期中。
※前売券および当日券は、中日新聞販売店、Boo-Woo(ブーウー)チケット、ローソンチケット、チケットぴあ、セブンチケット、イープラス、ART PASS、愛知県美術館チケット売場(当日券のみ)、主要プレイガイドで購入できる

歌川芳貞銘「刺子長半纏 龍虎図」江戸末期(後期展示)
東京都江戸東京博物館蔵
セット券| どうぶつ百景展×東京富士美術館展ダブルチケット 一般 2,500円
本展のチケットと名古屋市美術館特別展「珠玉の東京富士美術館コレクション 西洋絵画の400年」(2025年4月12日[土]~6月8日[日])のチケットが1 枚ずつセットになったチケット
※セット券は一般のみ
※購入時に各展覧会のチケットが1枚ずつ発行される。2枚同日、もしくはそれぞれ異なる日でも使用できる
※販売期間は 2025年2月20日[木]~4月10日[木]。予定数に達し次第、販売終了。
※どうぶつ百景展×東京富士美術館展ダブルチケットは、Boo-Woo(ブーウー)チケット、ローソンチケットで購入できる

「猫の蚊遣り」昭和前期(通期展示)
東京都江戸東京博物館蔵
見どころ
【みどころ1】
パリ日本文化会館の開館25周年を記念して2022年11月に開催された「いきもの:江戸東京 動物たちとの暮らし」展は、当地で⼤好評を博した。
本展では東京都江戸東京博物館のコレクションのなかから、パリで展示した作品に加え、動物と人との関わりを示す作品・資料をさらに豊富に展示する。
【みどころ2】
愛知会場では、吉祥を表す動物のイメージに着目した特別展示を行う。愛知県美術館(木村定三コレクション)の近世絵画から、「鶴」や「叭々鳥」といった縁起の良い動物を描いた絵画を紹介する。

歌川国芳画「疱瘡絵 みみづく」1812-60(文化9-万延元)年
(前期展示)東京都江戸東京博物館蔵
展示内容
プロローグ:外国人が見た日本人とどうぶつ
江戸時代のいわゆる「鎖国令」以降、日本では200年以上にわたって海外との交流が厳しく制限された。開国後に日本を訪れた西洋人の中には、日本や日本人について詳細な記述を残す者が現れた。
本展のプロローグとして、彼らの記録から日本人と動物の日常を紹介する。
1877(明治10)年に「お雇い外国人」として来日した米国の動物学者エドワード・S・モース(1838~1925年)は、日本人が動物を親切に扱うことに驚いた。彼は、街の人々が道にいる犬や猫を避けて通行し、親しみを込めて動物の名に「さん」をつけて呼ぶと日記に記している。
「何度となく人力車に乗っている間に、私は車夫が如何に注意深く道路にいる猫や犬や鶏を避けるかに気がついた。また今迄の所、動物に対して疳癪を起したり、虐待したりするのは見たことが無い。口小言をいう⼤人もいない」 (エドワード・S・モース『日本その日その日』1917(⼤正6)年 より)
第1章:江戸のどうぶつ——「江戸図屏風」のどうぶつを探してみよう
江戸時代は、世界史上でも類を見ないほど極めて長期間の平和が続いた。1603(慶長8)年に征夷⼤将軍に就任した徳川家康は、広⼤な関東平野の地の利と水運を活⽤し、新しい城と城下町の建設を開始。そのもとで江戸は、18世紀初頭には推定人口百万人という巨⼤都市に発展した。
江戸時代前期の江戸市街と近郊の景観を取り上げたのが、国立歴史民俗博物館所蔵の「江戸図屏風」である。本屏風には、将軍による狩猟の様子とともに、荷物や人を運ぶ馬、猿と猿回し師など、江戸時代前期の人々と動物との関わりが随所に描かれている。本展では江戸東京博物館所蔵の複製を展示する。
第2章:飼育されたどうぶつ
江戸の街で人に飼育された動物の種類は多岐にわたる。例えば、馬や牛など輸送や農耕の助けになるように飼われた家畜や、狩猟で活躍する犬や鷹、町内で飼われ、番犬的な役割を果たした町犬などがいた。

歌川広重画「名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣」1857(安政4)年(前期展示)
東京都江戸東京博物館蔵
動物たちは都市のさまざまな階層の人々を助ける⼤切なパートナーだった。現代のペットに近い感覚で、猫や小型犬、鳥や金魚などの飼育も盛んだった。愛玩のための動物の飼育には時代と共に流行があり、飼育している鳥の鳴き声を仲間内で競い合うような催しも開かれた。

「鶉会之図屏風」江戸後期(前期展示)
東京都江戸東京博物館蔵

月岡芳年画「風俗三十二相 うるささう 寛政年間処女之風俗」
1888(明治21)年(後期展示)
東京都江戸東京博物館蔵
第3章:野生のどうぶつ
江戸時代を通して、将軍や⼤名の武芸の訓練としての狩猟が、野生の鹿や猪、野鳥などを対象に繰り広げられた。
江戸および近郊の動植物を網羅した『武江産物志』(1824〔文政7〕年刊)には、野生動物の目撃情報が記され、狐や狸をはじめ、現在は絶滅したとされるニホンカワウソに関する言及もみられる。

歌川広重画「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」1857(安政4)年(後期展示)
東京都江戸東京博物館蔵
江戸の街には鶴やトキ、ヒシクイなど⼤型鳥類も飛来した。浅草寺などの寺院の屋根に、コウノトリが営巣したという記録も残されている。本章ではそのような野生の動物を描いた浮世絵などを紹介する。
第4章:見られるどうぶつ——見世物から動物園へ
17世紀初頭から急速に都市化が進んだ江戸では、さまざまな娯楽が行われるようになる。18世紀に入る頃には、敷地内に動物を展示し、客に飲食を提供する店が出現した。

歌川芳盛画「天竺馬爾加国の出生⼤象の図」1863(文久3)年(後期展示)
東京都江戸東京博物館蔵
幕末頃から本格化した欧米諸国との文化交流は、日本人と動物との関係に変化をもたらす。諸外国との貿易を通じて、国内に生息しない生きものの輸入が増え、江戸に空前絶後の動物ブームが起きた。
やがて明治時代に入ると、世界と対等に渡り合う文明国家としての国づくりを進める中で、国際交流や教育、社交の場でもある動物園や競馬場といった施設が作られた。
第5章:デザインの中のどうぶつ
日本では、古くは縄文時代より、土偶などにおいて動物を意匠化していた例がある。江戸時代には、町人層の人々が文化の担い手となったことも影響し、バリエーションに富んだデザインの生活⽤品が作られるようになった。

「刺繍藤に猿図懐中たばこ入れ」江戸時代(通期展示)
東京都江戸東京博物館蔵
その中で動物は主要なモチーフとして欠かせない存在だった。19世紀末頃になると、それまで動物が担っていた吉祥や季節感、物語の象徴などの意味が薄れ、動物の意匠においては愛玩対象としての可愛らしさが強調されるようになっていった。

「赤羅紗小犬文守袋」江戸-明治時代(通期展示)
東京都江戸東京博物館蔵
番外編 どうぶつギャラリー愛知編:吉祥のどうぶつ——木村定三コレクションの江戸絵画
一年の節目あるいは人生の節目において門出を祝う吉祥の図像は、古くから私たちの生活に根づいている。伝統的な吉祥のモチーフの多くは中国に起源をもち、飛鳥・奈良時代から取り入れられてきた。

英一蝶画「旭日鶴図」江戸前期-中期(18世紀前半)(通期展示)
愛知県美術館(木村定三コレクション)蔵
本章では、江戸時代中頃の絵画に光をあて、愛知県美術館(木村定三コレクション)の近世絵画から数点を選んで展示。これらの絵に描かれた鶴や叭々鳥、鳳凰といった動物は、江戸時代の人々にも特に好まれた縁起の良い画題だった。

伊藤若冲画「菊に双鶴図」江戸中期(18世紀後半)(通期展示)
愛知県美術館(木村定三コレクション)蔵

建部凌岱画「梅に叭々鳥図」江戸中期(18世紀)(通期展示)
愛知県美術館(木村定三コレクション)蔵
関連イベント
記念講演会「江戸東京博物館コレクションにみる人々と動物」
[日時]4月20日(日)13:30-15:00(13:00開場)
[講師]小⼭ 周子氏(東京都江戸東京博物館 学芸員)
[会場]アートスペースA(愛知芸術文化センター12階)
[定員]先着180名
※聴講無料
※事前申込不要
ギャラリートーク(学芸員による展示説明会)
[日時]5月3日(土)、5月10日(土)、6月7日(土)各日11:00-11:40、5月23日(金)18:30-19:10
[会場]愛知県美術館展示室内
[定員]各回先着30名
※事前申し込み不要

英一蝶画「王子喬図」江戸前期-中期(18世紀前半)(通期展示)
愛知県美術館(木村定三コレクション)蔵
図録
『どうぶつ百景―江戸東京博物館コレクションより』
[監修]東京都江戸東京博物館
[編集]東京都江戸東京博物館 小⼭周子・西村直子・川口友子、東京ステーションギャラリー 田中晴子、⼭梨県立博物館 松田美沙子、愛知県美術館 由良濯・塩津青夏、富⼭県水墨美術館 桐井昇子、NHKプロモーション、廣瀬歩・粕川雅(STORK)
[発行]NHKプロモーション
[価格]2,500円(税込)

英一蝶画「朝顔に日傘図」江戸前期-中期(18世紀前半)(通期展示)
愛知県美術館(木村定三コレクション)蔵

歌川豊春画「遊女図」江戸中期安永-後期天明(18世紀後半)(通期展示)
愛知県美術館(木村定三コレクション)蔵