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あいちトリエンナーレ 8組が展示の中止・変更

 「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」の中止に伴い、展示の一時停止などを求める声明を出していた海外9作家のうち、8組の展示中止や、展示内容の変更が2019年8月20日から実施された。対応協議中だったウーゴ・ロンディノーネさんは、展示を継続することになった。作品を改変することで、表現の自由を守る意思を示した作家もいる。

モニカ・メイヤー作品

 名古屋市美術館で展示していたメキシコ出身のモニカ・メイヤーさんは、 参加型プロジェクト《The Clothesline》に変更を加え、表現の不自由展が中止になったことに強く抗議している。《The Clothesline》は、メイヤーさんが1978年から世界各地で実践してきたプロジェクト。日常生活で感じる偏見やハラスメントなどをピンク色の紙(質問カード)に書いてもらい、物干しロープ(clothesline)などに展示することで、公共空間で声を上げられない人に告白できる環境を提供し、社会構造から生じるダブル・スタンダードについて観客に気づかせる。会場では、枠に吊るしてあった約1600枚のカードを回収し、未記入の紙を破って床に散りばめた。
 作品には、「表現の自由を守る」という声明文を掲げ、「沈黙のClothesline」と題した新たな作品メッセージも提示。表現の不自由展の再開まで沈黙を続けるとし、今後、質問カードは受け付けず、すでに集まったカードは、片付けたとした上で、「人々が彼らの体験を共有し声を上げるための場所を開くアーティストとして、私は、作品が検閲されている仲間のそばにいます。そしてこの困難な状況に直面しているトリエンナーレで働く人々と連帯します」と主張した。

 その他のアーティストの展示中止、変更の詳細は、トリエンナーレのwebサイト。また、メイヤーさんの作品の詳細は、メイヤーさんによる名古屋大での公開レクチャーの記事を参照。

モニカ・メイヤー作品の声明文

 2019年8月12日付の「ARTnews」(web) のオープン・レターと、8月14日配信の「美術手帖」(web)などによると、ウーゴ・ロンディノーネ、タニア・ブルゲラ、ピア・カミル、クラウディア・マルティネス・ガライ、レジーナ・ホセ・ガリンド、ハビエル・テジェス、モニカ・メイヤー、レニエール・レイバ・ノボ、ドラ・ガルシアの9作家がキュレーターの1人、ペドロ・レイエスとともに、「表現の不自由展・その後」の中止に抗議し、展示作品の一時的な取り下げを主催者に申し出た。既に展示が中止となった韓国の2作家、イム・ミヌクとパク・チャンキョン、米国の非営利報道機関・CIR(調査報道センター)の3組を加え、辞退は12人(組)のアーティストと1人のキュレーターに拡大した。
 オープン・レターによる声明では、「表現の自由を擁護する」と題し、「表現の不自由展・その後」の閉鎖決定を非難。河村たかし名古屋市長、菅義偉官房長官の発言、匿名電話による嫌がらせや脅迫のファクスを表現の自由に対する攻撃だとした上で、スタッフと鑑賞者の安全を確保した上での再開を要求している。また、アーティストの声や作品を守ることは倫理的な義務で、表現の自由は、どんな文脈からも独立して擁護される必要がある不可侵の権利だとしている。
 その上で、トリエンナーレの主催者が、参加アーティストやキュレーターと議論することなく「表現の不自由展・その後」を閉鎖したことに疑問を呈し、アーティストの権利を守り、表現の自由を守ることは主催者の責務だと強調。「表現の不自由展・その後」が公開されていない期間中、連帯の意味を込めて、自分たちの作品の展示を中止するよう主催者に要求した。
 

モニカ・メイヤーの展示、名古屋市美術館
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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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