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あいちトリエンナーレ・表現の不自由展中止 波紋広がる

 あいちトリエンナーレ2019の国際現代美術展の企画「表現の不自由展・その後」が中止となった波紋を、2019年8月6日の朝刊各紙が伝えている。各紙とも報道しているのが、トリエンナーレ実行委の会長、大村秀章愛知県知事と、会長代行の河村たかし名古屋市長による、表現の自由を保障する憲法21条を巡る対立だ。
 各紙の6日夕刊によると、トリエンナーレの参加作家72組が声明を発表。テロ予告と脅迫に抗議するとともに、安全性確保の上での(「表現の不自由展・その後」の)展示継続と議論の場を求めた。また、展示中止を受け、「表現の不自由展・その後」とは関係がないトリエンナーレ出品者の韓国人作家二人が、出展の取り下げを申し出て、公開中止が決まった。二人は、イム・ミヌクさんと、パク・チャンキョンさん。中日新聞などによると、二人の展示室は閉鎖され、それぞれの入り口に「検閲に抗議する」という二人の声明などが掲示された。イムさんは、南北朝鮮の分断をテーマに2面の映像と民族衣装を展示した大規模な映像インスタレーション「ニュースの終焉」、パクさんは、北朝鮮の少年兵をイメージした写真「チャイルド・ソルジャー」を出品していた。

 6日朝刊で最も大きなスペースを割いたのが朝日新聞。社会面(左面)を全面使い、大展開した。同紙によると、5日の知事の定例会見で、大村知事が「(河村市長の)一連の発言は憲法違反の疑いが極めて濃厚だ」と発言。一方、河村市長も会見で「表現の自由は一定の制約がある」などと述べた。
 同紙によると、河村市長以外にも、日本維新の会の杉本和巳衆院議員(比例東海)が展示の中止を求める要望書を出している。
 同紙では、江藤祥平・上智大准教授(憲法)が「(河村市長は)『表現の自由』はいらない、と述べているに等しい」とコメント。河村市長の行動については「検閲」そのものには当たらないが、憲法21条に違反する疑いはあるという。また、「表現の不自由展・その後」に展示された、憲法9条を詠んだ俳句に関わる訴訟で弁護団の一員だった弁護士も、河村市長の発言を「思想や表現の自由を妨げるもの」と断じている。
 朝日新聞はまた、自民党の中にも、「政府や行政に批判的な人も納税しているのだから、政府の意向に沿った芸術祭にしか公金を拠出しないというのはおかしい」、「『政府万歳』の作品しか出品できない芸術祭であってはならない」という内容の健全な意見があることを紹介している。
 朝日新聞で注目したのは、民族派団体「一水会」の木村三浩代表のコメント。2008年に公開されたドキュメンタリー映画「靖国」が反日との批判を浴び、映画館が上映中止に追い込まれる中、一水会などは試写会を開き、その上で、木村代表が監督に会って自分たちの意見を伝えたという。今回出品された、昭和天皇の肖像を含むコラージュ作品が燃える内容の動画についても、「あのような見せ方は疑問」としながら、「制作者に意見を伝え、制作の意図も聞きたい。それが表現の自由ではないか」などと発言。その上で、賛否両方の人が今回の問題を考えられる場を設けることを提案している。
 4日に名古屋市内であった(展示中止に対する)抗議集会に参加した人によると、実際は左派の政治主張の口実に「表現の不自由展・その後」の中止が利用されている感じで、右派の街宣車とやり合う場面もあったという。そんな中、木村代表が朝日新聞で、「表現が不自由なことほどきついことはない。表現のあり方で対立した時に、攻撃的に言い合う社会になってしまっている」と述べて対論の場を提案したことが印象に残った。
 また、朝日新聞は、文化・文芸面にも、大西若人・編集委員の記事を掲載。その中で、ジャパン・ソサエティー(米ニューヨーク)のギャラリーでディレクターを務める神谷幸江さんが、表現や判断すること、意見を持つことが日本社会でまた一歩難しい状況に進んだことを危惧するコメントを紹介している。大西編集委員は、日本各地で開かれている国際芸術祭が地域起こしや観光、「お祭り」を目的としていることにも注意を喚起。アートが穏当な楽しいものばかりでなく、深刻な問題提起や社会性、歴史、他者性、対立などをはらむものもあるという本質を忘れていたのではないかとを指摘し、ドイツ・ドクメンタを例に、芸術祭の成熟を期待している。
 朝日新聞は、社説でもこの問題を掲載。日本の社会が不自由で、息苦しいものになっていることを指摘し、その病理と向き合い、表現の自由を抑圧する動きに異を唱え続けることが大切だと説く。
 毎日新聞も、大村知事と河村市長の主張をそれぞれ掲載。同紙によると、抗議の電話やメールはやまず、8月4日までに約3300件になるという。社説では、自分と意見の違う言論や表現を暴力で排除しようとする風潮がはびこっていることに危機感を表明した。
 中日新聞も、大村知事と河村市長の会見での発言を報道。河村市長の言動は「表現の自由を定めた憲法に抵触していると言われても仕方がない」とする小林節・慶応大名誉教授(憲法)のコメントなどを伝えている。
 日経新聞では、福田充・日本大教授(危機管理学)が「今回の問題は日本社会が抱える不寛容さを象徴している」とし、社会のあり方を議論するきっかけにすべきと話す。毛利嘉孝・東京芸大教授(社会学)は「公的な資金が入った芸術祭でも、国や行政の意見を表明するために存在するわけではない」とした上で、今回の問題について、社会全体で議論すべきことだと指摘する。

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文化とメディア—書くこと、伝えることについて

1980年代から、国内外で美術、演劇などを取材し、新聞文化面、専門雑誌などに記事を書いてきました。新聞や「ぴあ」などの情報誌の時代、WEBサイト、SNSの時代を生き、2002年には芸術批評誌を立ち上げ、2019年、自らWEBメディアを始めました。情報発信のみならず、文化とメディアの関係、その歴史的展開、WEBメディアの課題と可能性、メディアリテラシーなどをテーマに、このメディアを運営しています。中日新聞社では、企業や大学向けの文章講座なども担当。現在は、アート情報発信のオウンドメディアの可能性を追究するとともに、アートライティング、広報、ビジネス向けに、文章力向上ための教材、メディアの開発を目指しています。

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