STANDING PINE(名古屋) 2021年3月6日〜4月10日
アブドゥライ・コナテ
日本初の個展「The Diffusion of Infinite Things」
アブドゥライ・コナテさんは1953年、アフリカ、マリ共和国の出身。
マリの首都バマコの国立芸術院、キューバ・ハバナのアルテ研究所で絵画を学んだ後、マリに戻り、バマコを拠点に活動している。
作品のテーマは、現代の政治や環境、社会問題など。アフリカの文化や伝統に根ざした抽象的あるいは具象的なモチーフを組み合わせた色彩豊かなテキスタイル作品を制作する。
アフリカ現代アートシーンにおいて、最も重要なアーティストの1人である。
ヴェネツィア・ビエンナーレ(ヴェニス)、ドクメンタ(カッセル)、ダカール・ビエンナーレ(ダカール)などの国際展にも参加している。
メトロポリタン美術館(ニューヨーク)、スミソニアン博物館(ワシントン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、世田谷美術館、森美術館(東京)、アルケン近代美術館(コペンハーゲン)、アフリカ博物館(ベルク・エン・ダル)など、世界各地の美術館で作品を発表。
作品の多くが主要な美術館に収蔵されている。
2020年、ポンピドゥー・センターで開催された「Global(e) Resistance」展にも参加した。
ツァイツ・アフリカ現代美術館(ケープタウン)のBMWアトリウムで、4階建ての高さに及ぶ大規模インスタレーションを発表するなど、国際的な評価が高まっている。
コナテさんは、1990年代以降、テキスタイルを作品の素材として使っている。
母国マリで作られた綿織物で彩られた大規模なタペストリーのような作品。生活に根ざしたものといえるだろう。
それらは、テキスタイルをコミュニケーションの手段として使う西アフリカの伝統に基づいて制作される。
戦争や移民、権力乱用、テロ攻撃や虐殺、民族対立、感染症の脅威など、さまざまな問題がテーマとなる。
今回は、2018年から2020年にかけ制作された新作とともに、2005年に制作された重要な作品「Les boutons d’amour(愛のボタン)」を日本初公開している。
「Les boutons d’amour」では、純白の布地の真ん中にエイズへの理解と支援の象徴として国際的に使われているレッドリボンのシンボルマークがある。
アフリカで社会問題となってきたエイズ蔓延に警鐘を鳴らすことが作品の主要テーマであることが分かる。
小さな白いクッションが縫い付けられ、そこに赤いボタンがついている。膨大な数があるが、そのうち4個には、ボタンがない。エイズ撲滅に向けた希望の不完全さを表しているようだ。
ギャラリーによると、コナテさんは「ペスト、結核、ハンセン病、エイズなど、すべての危険な感染症の流行は社会に深刻な物語をもたらす。患っている人々は、いかなる差別もなく、他の誰よりも愛を必要としている」と語っている。
近年の作品は、シンボル的な形象や、短冊ような色彩のシンフォニーによって構成されている。
それらは、普遍的ともいえる世界の多様性、その尊重と喜び、調和、協調への祈りに満ちている。
アフリカでは、色は宗教的な象徴であるとともに、古来、重要な意味や象徴的な力を持っているが、コナテさんの作品では、独自の意味を帯びることもあるようである。
それらは時に、両義的であるともいえる。
黒と白の対比は、暗闇と光、知識とその欠如、大地と空を表すが、アフリカの文化で死をも意味する白は、コナテさんの作品では、死に「逆らう」ための色、良い前兆としての役割も果たしているという。
黒は、混乱や、事の発端、起源を意味する一方、新たな世代や可能性の幕開け、子孫繁栄をも表す。
鮮やかな赤は、人種を問わず、すべての人間に流れる血液、つまり、みなぎる生命力を表す。
それは一方で、部族の犠牲の記憶を象徴し、他方で、あらゆる存在の鼓動や予言の象徴でもある。
また、コナテさんの作品に繰り返し登場する青(インディゴブルー)は母国マリを象徴する重要な色である。
アフリカの遊牧民トゥアレグ族の色であり、海や川、命の媒体である水をも象徴する。
黄色は黄金に輝くサハラ砂漠であり、太陽、そして繁栄の象徴だ。
緑は自然、希望の象徴である。
コナテさんの色彩は、人類にとっての新たなユートピアを再定義しているともいえる。
つまり、相反する感情が調和のもとに混在し、森羅万象、無限の広がりの中に、協調と希望、平和をテーマとした交響曲が奏でられているのである。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)