長者町コットンビル1F(名古屋市中区錦2-11-24) 2021年11月19〜28日
神村泰代
神村泰代さんは 愛知県半田市出身。 名古屋芸術大学美術学部絵画科洋画卒業。同大学絵画科洋画研究生修了。卒業後は、主に関西で活動してきた。
オーディションによって、河瀬直美監督のカンヌ国際映画祭カメラドール受賞作「萌の朱雀」(1997年公開)に主人公の妻役で出演している。
活動拠点が名古屋に移った2017年以後は、この地方でも個展、グループ展などで精力的に発表している。砂時計やオルゴールを使ったインスタレーションが中心である。
町を紡ぐ 景色を織る 日々を縫う その手を纏う
長者町コットンプロジェクトは、神村さんが長者町繊維問屋の関係者と知り合ったことがきっかけで、2019年にスタート。今年で3年目となる。
プロジェクトは、 綿花育成者と共同で進められている。 長者町地区の会社、飲食店、寺社などと外部の協力者にコットンを育ててもらい、それによるコミュニティーのつながりとイメージの共有のプロセスをアートとして展開する。
長者町は、戦後、東京・日本橋、大阪・船場と並ぶ国内の三大繊維問屋街として発展した。
産業構造の変化による業界の空洞化、マンション建設などによる都市の変容の中で、失われつつある繊維問屋街の記憶を呼び起こすアートプロジェクトだともいえる。
長者町の歴史と過去の風景、記憶を共有、継承するとともに、新たな住民とのつながり、これからの都市環境とコミュニティー、持続可能な経済社会という未来のあり方をも暗示する。
会期中は、ワークショップが開催され、参加者が糸紡ぎを体験していた。
綿花は、長者町エリアの約30カ所で、初夏から11月にかけて栽培された。
展示会場には、「コットンボール 祝際」と題された綿のインスタレーションが展示された。
映像や写真作品のモチーフは、綿の種や木綿糸、育成に関わった人たちの手など。
長者町の離れた場所で育てられたプランターの綿が集められ、木綿糸が紡がれる。その糸のあやとりを通じて、多世代の手が交わって、未来をつくっていく——。
繊維問屋街の風景や歴史、人々の世代を超えたつながり、未来、身体性に関わるイメージになっている。
写真や映像によるドキュメンテーション、オーガニックコットンやSDGsに関係する資料展示もあった。
プロジェクトは、都市の中の小さなプランターによる綿花栽培によって、都市空間の歴史、地域のありようと可能性、人々のつながりをも浮かび上がらせた。
余談になるが、木綿で思い出すのは、亡くなられたアーティストの栗本百合子さんが1999年に、竹内綿布(愛知県知多市新知字宝泉坊)で展示したインスタレーションである。
昭和初めに建てられたその綿布工場は、昭和30年代ごろまで九州などからの集団就職の女性が働き、知多木綿を生産していた。1986年ごろに閉鎖。雨ざらしになっていた。
この空間にわずかに手を加えることで、積層した時間を視覚化させたのが作品である。栗本さんの数多い作品の中でも特筆すべきものだった。
白い光に包まれ、床にたまった水に柱と梁が映り込んだ異世界のような空間。壁は剥落、地面には雑草が繁り、古びた機械が放置されたままになっていた。
神村さんから提供を受けた資料の中にあった「知多木綿」という言葉で、ふと思い出した次第である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。(井上昇治)